交通事故の被害者が加害者に請求できる慰謝料とは、実際に支出した入通院費など、目に見える形でお金の動きがわかる財産権とは異なり、目に見えない被害者の苦痛に対して支払われるものです。
ここでは、交通事故の慰謝料について知っておきたい基礎知識について詳しくご紹介します。
交通事故における慰謝料について
慰謝料とは、被害者の精神的・肉体的苦痛に対する償いとして支払うお金のことをいいます。
被害者が事故により被った精神的苦痛を金銭に見積もって損害として算出するもので、その金額は定型・定額化されています。
それらの基準をもとに個別の事情を考慮した上で慰謝料の金額が決定されます。
交通事故の慰謝料を受け取れる人
事故で負傷した場合、被害者本人は加害者に対して慰謝料の請求ができます。
不幸にも被害者が死亡した場合、その慰謝料は相続人が相続することで請求できます。
では、それとは別に被害者が死亡したことによる精神的苦痛を理由に、遺族が加害者に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
実務では、被害者の遺族にも固有の慰謝料請求を認めています。
事故によって突然家族を失った遺族は、精神的にも経済的にも大きな苦痛を強いられるためです。
また、妊娠中の女性が事故の被害者となり、胎児が流産または死産した場合の慰謝料は、胎児の母親である妻からの慰謝料請求が認められています。
妊娠3ヶ月の胎児で約100万円、36週の胎児が死産した事案では700万円の慰謝料請求を認めています。
なお、後者の事案では、夫からの固有の慰謝料として300万円を容認しています。
夫の慰謝料については意見が分かれているところで、妻と夫の慰謝料合計額を限度として、妻と夫の配分を2対1としています。
交通事故の慰謝料の種類
交通事故での慰謝料は、交通事故によって受けた精神的苦痛を、金銭に換算して補てんすることを目的としています。
ただ、被害者のケガの具合や後遺症の程度などによって、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つに分けて慰謝料の算出を行います。
1.入通院慰謝料
傷害事故で慰謝料を決める際には、被害者と加害者の両者の事情を総合的に考慮して決めます。
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被害者が考慮される事情
- 障害の部位、程度、後遺症の程度
- 入院・通院期間や頻度など治療にいたる経過
- 性別、年齢、学歴、職業、社会的地位など
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加害者が考慮される事情
- 謝罪や見舞など、被害者に対する誠意
- 年齢、職業
- 飲酒運転、無免許運転などの違法行為の有無やその程度
こうした事情を踏まえ、日弁連交通事故相談センターが発行する通称青い本と呼ばれている交通事故損害額算定基準に掲載されている入通院慰謝料表をもとに慰謝料の算出を行います。
2.後遺障害慰謝料
自動車賠償責任保険法の後遺障害等級によって慰謝料の金額は異なります。
青い本の基準によれば、例えば第14級なら90~120万円、第1級なら2700~3100万円です。
実務では、後遺障害に対する慰謝料だけでなく、後遺障害が残ることによって受ける精神的苦痛についても損害賠償請求が認められています。
自賠責保険の基準よりも弁護士会の後遺障害の慰謝料の基準の方が、慰謝料の増額が期待できます。
なお、後遺障害等級の認定を受けていなければ、後遺障害慰謝料の請求はできません。
3.死亡慰謝料
死亡慰謝料を算出するにあたって、被害者の年齢、収入、家族構成、社会的地位、経済的に家族に与える影響や死亡に至るまでの苦痛の程度などを考慮し慰謝料を算出します。
その判断基準はあいまいで、人によって見解が異なるため、示談交渉でも揉めるケースがよく見られます。
そこで青い本では、慰謝料を定額化し、この基準をもとに死亡した被害者の背景を鑑み、金額を決定していきます。
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死亡慰謝料の例
- 死亡した者が一家の支柱であった場合
- 死亡した者が一家の支柱に準じていた場合
- その他の場合
被害者が世帯主として被害者の収入によって生計を維持していた場合の慰謝料は、2700~3100万円となります。
家事を中心にこなす主婦、養育を必要とする子どもがいる母親、高齢な父母や兄弟を扶養している独身者などの場合の慰謝料は、2400~2700万円です。
慰謝料は2000~2400万円になります。
自賠責保険における死亡慰謝料について
自賠責保険でも死亡事故の算定基準が明確に決まっており、死亡した被害者の慰謝料は350万円、遺族の慰謝料は請求権者に人数によって変わってきます。
青い本の基準よりもかなりの低水準であるため、加害者は任意保険から支払うか、任意保険未加入の場合は自費で支払う必要があります。
交通事故の慰謝料を決める3つの基準
慰謝料を決める上で基準となるのは、強制保険の基準、任意保険の基準、弁護士会の基準があります。
強制保険は、被害者が死亡した場合の慰謝料が350万円、傷害の場合は完治までの1日につき4200円と、はっきりと金額が定まっています。
任意保険の基準については廃止され、現在は各保険会社が独自に支払い基準を作成していますが、その水準は非常に低く設定されています。
弁護士会の基準は、青い本を参考に幅を持たせて、個別の事情を考慮して慎重に算定が行われていますので、慰謝料を増額して請求することができます。
交通事故の慰謝料に影響する要素
慰謝料は、当事者双方の過失割合に応じて増減されます。
過失割合で被害者の割合が高いほど、慰謝料が減額されることになります。
青い本によると、通院期間や入院した日数によっても慰謝料の金額は変わってきます。
この金額は、通院の慰謝料は1週間に最低でも2日程度の通院した場合を想定して作成されているので、この基準表をもとに慰謝料を算出することになります。
ただ、通院日数によって慰謝料の金額を決めるのは適当ではないケースもあります。
家事や仕事で1週間に2日以上通院できなかった方が慰謝料を減額され、1週間に3日以上通院した方が慰謝料の増額ができるといった不都合が生じる可能性があるためです。
こうした個別の事情を踏まえた上で、被害者の傷害の部位、程度、後遺症の程度、年齢、性別、職業、家庭状況などを考慮して慰謝料を決定していきます。
慰謝料の算出には、個別の事情が非常に重要な要素となります。
事故により精神的な苦痛を受けている時にこのような複雑な計算を正確に行うのは難しいのではないでしょうか。
交通事故に詳しい弁護士に相談して、適正な慰謝料が得られるようになることを願っています。